活動内容

紘鍼会本部・東京支部では、平成22年から1年前に遡り、毎月、松本俊吾会長が東京支部例会において、会員に配布しました講義資料の一部を、ホームページ上に公開することとしました。この講義録を閲覧頂き、経絡治療、取り分け「腹診」に興味のある方は、是非毎月第2日曜日午前10時から新宿・角三会館2F(年間日程と会場住所掲載)において定例会を開催しておりますので、お気軽に聴講頂ければ幸いです。

【月例会】

   
毎月第2日曜日 午前10時~午後4時迄
    (1月・8月は、第4日曜日)

   場所   
新宿角三会館
        〒160-0023 東京都新宿区西新宿3-9-28

   研修内容
    
☆ 午前の部 … 経絡腹診基礎講義及び疾患別処法
              講師 : 松本俊吾 (紘鍼会会長)
    ☆ 午後の部 … 臨床家のための実践講座・臨床質問・実技研修
    ☆ テキスト … 「経絡腹診要綱」(竹村 正著) 

  

                鍼灸経絡研究・紘鍼会
           平成28年度(2016年度)活動日程(1月例会以降)

 

鍼灸経絡研究・紘鍼会 平成28年度(2016年度)活動日程

 

Ⅰ 定例会研修日程

                                              定例会会場 … 西新宿角三会館2F

 

1 2017年1月新年例会 … 1月22日(日)

 ① 新年特別講演・経絡腹診に基づく杉山眞傳流十八術の臨床応用 No.1 … 松本俊 

 ② 平成29年度定期総会  (11:30~12:30)

 ③ 新年懇親会  (12:30~15:30)

 

1 例会講義と実技の時間割 

 10時       … 今月の言葉(松本会長)

 10時15分~11時 … 前半の講義

 (15分休憩)

 11時15分~12時 … 後半の講義

 (昼食休憩)

 13時~13時30分 … 腹診の臨床応用及び日常臨床質疑応答

 13時30分~14時 … 経絡確認のトレーニング

 14時~16時 … 班を分けての実技指導

 

 

  1. 初級実技 … 松本俊吾(補佐:小堺清子・富田 豪)

 

 ①  脈状診と腹診による負荷法を指導、現病と素因、証立て。

 ② 本治法における押手と、切皮法及び刺入法の指導。

 ③ 杉山流管鍼術による随証治療の指導。

 

  2. 応用実技 … 皆川嘉彦

 

 

2 2月例会 … 2月12日(日)

 ① 経絡腹診に基づく杉山眞傳流十八術の臨床応用 No.2 … 松本俊吾(紘鍼会会長)

 ② 質疑応答

 ③ 経絡トレーニング

 ④ 実技研修(上記の内容、以下同じ)

 

3 3月例会 … 3月12日(日)

 ① 古典講義  『素問』五蔵生成篇(十)その1 … 皆川嘉彦(学術部長)

 ② 質疑応答

 ③ 実技研修

 

4 4月例会 … 4月9日(日)

 ① 会長基礎講義 … 実技の手引書(13)

            Ⅵ.陰経から陽経への運鍼、及び腹部募穴との相関性

 ② 質疑応答

 ③ 実技研修

 

5 5月例会 … 5月14日(日)

 ① 古典講義  『素問』五蔵生成篇(十)その2 … 皆川嘉彦(学術部長)

 ② 質疑応答

 ③ 実技研修

 ※ 研修旅行 … 未定

 

6 6月例会 … 6月11日(日)

 ① 新病証別処法 第四章 運動器系諸病 3 五十肩(肩関節周囲炎) … 松本俊吾

 ② シンポジウム … 皆川嘉彦ほか  司会:宮城良彦

 ③ 質疑応答

 ④ 実技研修

 

7 7月例会 … 7月9日(日)

 ① 古典講義  『素問』五蔵生成篇(十)その3 … 皆川嘉彦(学術部長)

 ② 質疑応答

 ③ 実技研修

 

8 8月特別例会 … 8月27日(日)

 ① 杉山流の八脈診刺法について … 松本 俊吾

 ② 私の臨床室から … 皆川嘉彦

 ③ 暑気払い

 

9 9月例会 … 9月10日(日)

 ① 古典講義  『素問』刺禁論篇(五十二)

 ② 質疑応答

 ③ 実技研修

 

10 10月例会 … 10月8日(日)

 ① 古典講義  『素問』玉機真蔵論(十九) … 皆川嘉彦(学術部長)

 ② 質疑応答

 ③ 実技研修

 ※ 第45回日本伝統鍼灸学会金沢大会 … 10月14日(土)~15日(日)→研修旅行を企画

 

11 11月例会 … 11月12日(日)

 ① 冷え性・冷え症と灸法について

 ② 例会の研修内容についての意見交換

 ③ 質疑応答

 ④ 実技研修

 

12 12月例会 … 12月10日(日)

 ① 未定

 ② 未定

 ③ 質疑応答

 ④ 実技研修

 ※ 有志忘年会(会場未定)

 

 

Ⅱ 臨床研修部会日程と研修内容

 研修部会(9回):2/26・3/26・4/23・5/28・6/25・7/23・9/24・10/22・11/26

  会場 … 代々木ふれあい会館和室 10:00~16:00

 ※ 会員は自由参加とし、紘鍼会方式による相互の実技研修ができる。

 ① 腹診の臨床応用と意見交換 10:00~12:00  司会 … 宮城良彦

   講師 … 皆川嘉彦ほか

 ② 参加者による臨床実技研修 13:00~16:00

 ③ 参加費 … 1,000円(昼食代を含む)

 

 

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紘鍼会本部・東京支部では、平成22年から1年前に遡り、毎月、松本俊吾会長が東京支部例会において、会員に配布しました講義資料の一部を、ホームページ上に公開することとしました。この講義録を閲覧頂き、経絡治療、取り分け「腹診」に興味のある方は、是非毎月第2日曜日午前10時から新宿・角三会館2Fにお出かけ下さい。


 

4  膝の痛みの処法(膝の腫脹・変形性膝関節症を含む)

 はじめに

 伝統鍼灸医学を基に下肢疾患を診る場合に、関節に発する諸現象のうち、痛みや腫脹の原因は多岐にわたる。その中でも膝関節周囲の皮毛や筋・肌肉に虚実所見として疼痛・腫脹・骨変形・浮腫等が最も多く診られ、その誘因の一つとして加齢・過労が上げられよう。また古典の中には、内傷に起因し、臓腑の変動により、気血循環に変化を生じる病、つまり「虚労」として顕現する諸症や「血」によって起こる膝の痛みや腫脹等が含まれよう。また陰邪である寒湿の気が体表中でも、足部より侵襲し膝の腫れや痛みを生じることについては、誰もが認めるところである。

 一方現代医学の観点から鍼灸適応可能な膝関節疾患には次のようなものがある。

 つまり変形性膝関節症・軽度の滑液嚢(膿)炎・膝蓋骨の骨折後の後療法等である。

 他方不適応症としては、半月板断裂・十字靭帯や内外側副靭帯等の断裂・過酷性筋炎・膝蓋骨骨折・大腿骨遠位や脛骨近位の骨解離性骨軟骨症等である。また変形性膝関節症に限定して言うと、例えば、閉経後の婦人で肥満タイプや、50歳代以降に、清掃等、前屈位で作業をしたり、力仕事を行った中高年令層の男女に多発する。更にいわゆる冷えや湿気によって、膝関節周囲に疼痛や腫張を訴え、我々の治療院の門をたたく例も多く、難治のものも診られる。このほか若い男女で、スポーツやレクリエーション等で膝を痛める症例も少なくない。

 そこで変形性膝関節症の痛みの程度を診る際に、膝の周囲の組織にポイントを置くことが大切である。膝蓋骨の上下に連結する骨には、大腿骨・脛骨・腓骨がある。但し腓骨については、直接膝関節に影響しないと考えて良い。

 次に関節包に関わる病変としては、膝周囲の水腫である。膝と筋肉との関係では、大腿四頭筋・半腱半膜様筋・大腿二頭筋と膝の下には、膝窩筋・腓腹筋・平目筋・長腓骨筋・前脛骨筋等がある。また膝をしっかりと包む靭帯を含め、これらは全て鍼灸処置法の対象である。膝の変形性の発症機序は概ね、関節軟骨が擦り減り、機械的なストレスが関節に加重(立位・歩行時の負荷)となって発する痛みが主流と診て良い。本稿では、まず古典に述べる、虚労の病因・病理と膝関節の諸症との関係を明らかにした上で、『内経』の文節を取り上げている『病因指南』の論旨から、膝の痛みの発症機序について私見を挟み述べよう。更に『鍼灸重宝記』に見る、関連文節を抜き出し、解説を加えた。これらから、膝の病における臓腑経絡診断と鍼灸処法について後段に症例をあげることにする。

 

Ⅰ 節痛(膝関節を含む)の病因と病理

 1. 虚労について  ※ 『病因指南』の論旨を引用。

 「虚労の労は、臓器の疲労なり」とし、そのうち関節の痛みと直接関係するのは、労症と言い、虚労の中では比較的治し易しとまず述べている。また「地を揺るがしにし、筋を軽んじて、ついに虚労の重きに至る」とも言う。労症は膝の痛み程度、虚損とは、精神・内傷が脾胃に及ぼし、羸痩や骨痿等に至り、この一部について変形が進んだ膝関節症が含まれよう。

 『病因指南』には、陰気と陽気の虚実と虚労の関係について、『素問』・超形論(六十二)を引用している。つまり「陽虚する時は、則ち外冷ゆ。陰虚するときは、則ち内熱す。これ虚労骨病の性分の云うなり。陰虚火動、心・脾・肝・腎の精・血を補い相火を下し、兼ねて元気を助くべし」と論じている。この他、『素問』・評熱病論篇(三十三)を取り上げ、「陰虚するもの、陽は必ずこれを集まる」とも述べている。これは労倦によって表部陽気が集まると言うのであり、膝周囲の腫脹の一部も含まれよう。以上から虚労と膝に発する諸症との関係については、精神を含めた内傷に起因し、中焦脾胃が相火の作用によって、気血循環系に変化を生じ、脾・腎・肝等の五臓に影響を与え、結果において節痛むや、内熱によって実証としての筋肌肉の膨張や腫脹・水腫等、また逆に虚証として骨痿や筋肌肉の羸痩と合わせ、節の痛みが生じると言うのである。

 2. 『鍼灸重宝記』の脚気(かっけ)及び足の痛みについて

 男は腎虚、女は血海の虚より発る。或いは風寒・暑湿を受けて、生ず。走り痛むところ定まらざるは風なり。筋拘急(すくばり)して、引き裂く如くに痛むは、寒(冷え)なり。腫れて重きは湿なり。手足あたたまり、熱し乾きて便実(かた)きは、暑熱なり。骨節大きになり節の間、細くなるを、鶴膝風と云う。治し難し。脚気腹に入る時は大事なり。

 ※ 灸 … 三里・三陰交・風市・外踝、内踝。

 ※ 鍼 … 公孫・衝陽・委中・懸鐘・飛揚。また痛む上に鍼を刺すべし。

 【解説】 … ここで云う脚気とは、現代医学で云うビタミン不足による「かっけ」の現象と同列に考えるのではなく、膝関節の諸症の全てを範疇として考えれば良い。女は血海の虚と云うのは更年期以後の血が元で起こる膝の炎症や骨節の変形を指す。

 左天枢・大巨と左膝の内側血海から膝の内側変形では膝関、陰陵泉までの肝・脾・腎経上の虚実所見により血の変化として対比鑑別することになる。

 それでは古来から多く膝の鍼灸処法として用いられてきた脚気八処の穴を付記しておこう。

 風市(阿是穴)・伏兎(胃)・犢鼻(胃)・外膝眼(阿是穴)・三里(胃)・上巨虚(胃)・下巨虚(胃)・懸鐘(胆)の左右各8穴を指して云うのであり、小灸20~30壮を施す。

3. 『鍼灸重宝記』の痛風について

 痛風は遍身の骨節走り、注して、痛むなり。気血虚弱し、風・寒・湿に感じ、或いは痰、経絡に流れ注ぎ関節利せず。

 ※ 鍼 … 百会・環跳に刺すべし。

 【解説】 … 痛風は膝関節にも発症するが、ここでは、膝の腫脹に準じて、『重宝記』に書かれている論旨も参考に供した。

 

Ⅱ 膝関節症の診断と留意点

 1. 膝関節症の診断の要点と証との関連

 ① 膝の内部の痛みが続き夜間に目がさめる(自発痛) … 脾虚型

 ② 歩行時や立ち上がる時に膝が痛む(動作痛) … 肝虚・腎虚型

 ③ 膝関節が腫れて熱がある … 肝虚・脾虚型

 ④ 膝の直上に水が貯留しているが熱は無い … 腎虚・脾虚型

 ⑤ 膝が変形し正座が出来ない … 腎虚・肝虚型

2. 証へのポイント

 ① 階段を上る時に痛む … 腎虚

 ② 階段を下る時に痛む … 肝虚

 ③ 座るときに痛む … 腎虚

 ④ 立つときに痛む … 肝虚

 ⑤ 脾虚は①~④の全てに関わる。

 ⑥ 血に起因する諸症は肝虚で左膝に多く発症する。

 

Ⅲ 膝症と五行及び臓腑の虚実

 伝統鍼灸学から見た膝の痛みの診断と処置法の概要をまず述べ、これが『日本鍼灸医学』臨床編に述べる病理を並列に病証弁別法を、紘鍼会で行う脈状及び腹診とすりあわせを行い論治の整合性を試みた。

 『霊枢』・邪客編(七十一)には、腎水としての、寒湿の邪が膝窩に侵襲するとしており、本症の誘因となるのである。又、膝関節及び骨は腎の主りであり、脾胃は肌肉を主り、四肢を支配している。我々が日々の運動不足や、労倦によって脾気が滞ると、膝の周囲の筋群は痩せてくる。

 これに加え、節痛むは、『霊枢』・本兪編(二)や、『難経』に述べる五兪病症において、五行では土性が主り、病理的に、処置法の目標は中焦脾胃の気を補うことになり、本治法においては、陰経で兪土原穴、陽経では合土穴を用いることになる。これにより全身の気血循環を促し、四肢を十分に動かせることになり、これに加え、痛みを同時に除去する刺法が求められる。

 このほか、血について肝は血を蔵することを考え、合わせ「肝は関に通ず」とも言われており、筋は肝の主りである。臓腑・経絡的には、肝・腎・脾が関わり、重要証が多く、脾の証を軸に、腎と脾及び肝と脾の証が左右に立ち、負荷法に基づき原穴取穴を行うと良い。本治・標治法として陰経では合水穴、陽経では合土穴が膝の周囲に位置しており、何れも主治穴として多用されるのである。

 1. 膝関節症と脾虚証について

 『素問』・至真要大論(七十四)に、「諸湿腫満は皆、脾に属す」と述べ、また宣明五気篇(二十三)に、脾は湿を悪む」とある。脾が虚し陽気が発散しないと、陰邪である湿は内にこもり熱実になり、痛みや腫脹を生じるのである。同時に腹部に流注する陽明経の実証を呈し、腹痛や、下痢を来すこともある。湿が停滞している膝関節に発散されない陽気が熱と変化し、関節に疼痛を発するのである。これは脾虚で対側に腎虚を取り、患側の足の陽明胃経が実となり梁丘から三里・豊隆・下巨虚までの反応穴位を瀉法する。一方寒湿の邪が膝関節に直接侵襲した場合には、腎虚が関わり、裏部の疼痛を発し、この場合には、腎脾の証として処置することになる。

 また前述した虚労の病から膝関節痛を発する場合は、本来虚証体質の人が、労働によって津液を消耗するもので、前屈位で掃除等を続けて行うと、腹部の臓腑は弛み、逆に手足は引き攣ることになり、「血気虚弱し陰陽利せず」の形である。このような状態の時に、湿熱・寒湿の邪の侵襲を許すことになる。これは胃腸病と関節痛が同時に発する状態である。

 脾虚で寒証の場合には、「内湿の症を病む者は、多く気虚に属す。気は陽に属す。陽虚すれば冷え中より生ず。冷え生じれば、湿気これに滞る」とある。また湿の気が多くなると陽気の発散は押さえられ、之に飲食労倦が加わると、陽気はうちに隠り、熱は脾の支配する節や胃経に停滞し湿熱の病を生じることになる。「湿は好んで脾に帰し節に流る、之に中れば関節熱し痛む」と云うのはこのことである。『素問』・至真要大論(七十四)に、「諸湿腫満は皆脾に属す」と述べている。湿気により脈状は沈・緩もしくは裏熱と痛みがあれば沈・実脈となる。腹証は上虚下実で気街部か股関節の髀関にかけて肌肉の脹りを認める処法は例えば、左患側脾虚で、太白・公孫を補鍼し、胃経の梁丘()・三里(合土)を瀉法し髀関と犢鼻を重用すれば良い。この場合に左肓兪の硬結を条件に右腎虚となる。

2. 膝関節症と肝虚証について

 前述の脾虚による熱が、上焦の肺・心に内攻すると、膝関節が熱をもち、腫脹や変形を起こし、疼痛を発症する。これは肝虚であり膝に熱を持つことになる。

 また血の変動によって筋に影響を与え、表の心肺に熱が生じて、関節を曲げ伸ばしすると疼痛を発することになる。『素問』・萎論(四十四)に「肺熱し、葉焦ぐれば、則ち皮毛虚弱して急薄す。著すれば則ち痿躄を生ずるなり。心気熱すれば則ち下脈(少陰経の熱を沈める陰気)厥して上り、上れば則ち下脈虚す。虚すれば則ち脈痿を生じ、枢折けつ(関節が自由に動かない)し、脛縱みて、地に任せざるなり。」とある。これは肺経と心経に熱が内攻したものである(鶴膝風)。鶴のように関節が大きく筋肌肉は細くなって痩せてくるのであり、肝虚で熱の証である。「味の酸は筋を傷る筋傷られれば緩む。これを節と云う。また鹹味は骨を傷る。骨傷らるれば、萎える」であり、肝の酸味と腎の鹹味の取り過ぎからくる蔵への影響を説くのである

 これを相火の働きに置き換えると、三焦の陽気(相火)の働きが水穀の海(気海・血海・髄海)が機能しなくなるとしている。つまり肝虚証は血が少なくなるのであり、虚労(肝血が少なくなった状態)となり、前述した過労による諸症がこれに相当し、関節の疼痛が生じるのである。これは過労により膝の屈伸し難い状態である。同じようにこの状態で、寒冷が重なっても疼痛が起こる。これを我慢していると熱を発し痛みを伴う鶴膝風に移行すると考えて良かろう。

 これらをふまえ肝虚証型の証を次のように分けて考えたい。

 ① 肺虚肝実証は、心肺の熱の内攻から起こり筋肌肉の痩せから進行し典型的な変形性の鶴膝風となるのである。

 ② 脾虚肝実証(熱と腫脹あり)は、痛風による腫れと疼痛である。

 ③ 脾虚肝虚証(冷えの侵襲)は、膝関節痛があるものの腫れはないもの。

 ※ 血による肝虚の場合には、右肝虚左脾虚が多く診られ、右太衝と太谿、左太白・太陵を取穴する。

3. 膝関節症と腎虚証について

 腎水が虚の状態になると熱を生じる。汗と小便が多くなり痩せてくる。腎虚による熱を外に出そうとするからだ。これは中年に起こる肥満により関節に加重がかかり熱を発し、膝に水腫を生じ痛みを併発することになる。

 特に中年の女性については、腎の熱が胃に入り、消化作用が旺盛となり、これはつまり胃実証である。この状態が続くと腎水の働きは衰え、虚の形となり、水を押し出す力が不足し、膝関節に水が貯留するのである。

 この際の脈状は浮脈となる。これは陽気が陰気に押されて表陽に滞り発散しないからである。同時に表熱を伴い表皮が脹り満ち痛むのである。

 脈は浮実で、腹部膨満し、圧痛点を呈しないことが多い。

 ※ 右復溜・尺沢、左脾虚として、公孫・内関を取るが、浮腫が著明の場合には三陰交に置鍼し、陰陵泉と曲沢を取ると、浮腫による熱と排尿を促し、腫れは除去される。

 

Ⅳ 標治法による足・股関節・腰臀部との相関による刺法テクニック

 ① 随証取穴と処置法

 膝の痛みを含め膝関節症は、急性症・慢性症によって処法は若干異なるが、基本的には、同じテクニックを用いて良い。まず奇経の内、手足の二点間を遠位取穴する。内側の痛みには手の心包経の内関と、足の脾経・公孫の両絡穴を用いる。

 更に外側の痛みには、手の三焦経の外関穴と、足の胆経臨泣穴を用いる。又膝の中央部の痛みには、髀関と犢鼻穴を鍼と鍼を用い合わせワザ(重用穴の運用)を行うと、痛みは軽減消去する。このように、関と言う文字のつく穴位は膝を含め、関節疾患に関与する。尚、股関節と足関節の関連を特に臨床上注意して診る。私は、環跳と陽陵泉・髀関及び中府と犢鼻・居と中封等による合わせワザを行っており、膝の内・外・中央部の痛みに多用している。又足関節より指先にかけての穴群を経絡の走行と患部との関連により選穴する。特に膝の腫張と痛みを伴う運動制限には、肝経・胃経・胆経の中足骨間の諸穴(太鐘・陥谷・傍谷・臨泣・地五会)を取穴し、鍼を上方に向け、硬結部に対し軽い雀啄刺法と捻りテクニックを用い、この手さばきによって、膝の痛みは軽減・消去する。

 ② 膝関節と腰部・股関節、足関節周囲の穴群との相関取穴法

 膝関節の諸症のうち、特に内側の痛みでは、中足骨第1骨間が、外側の痛みでは第4骨間の狭小が診られる。

 この部位の緊張を解くことにより、膝の内・外の痛みは軽減する。

 膝の表面全体の痛みには、陽経では胃経(解谿)・胆経(丘墟)、膀胱経では(申脈・僕参)の足関節周囲の穴(踝穴)を取り、留置術を主に用いる。

 その他、膝窩の委中を含めた膀胱経上の痛みには、崑崙或いは金門を取穴する。

 股関節周囲の居・髀関・気街部の穴群の虚実反応所見と患部との比較診断による、相関処置を忘れてはならない。膝の深い部の重い痛みや、内側の変形性の痛みには、内膝眼と膝関穴を取り、外側の痛みには外膝眼や陽陵泉もしくは陽関穴を取ると良い。尚、内・外膝眼に対し上方にステンレス寸三・二番鍼を約三から五分刺鍼、響きの有るところで置鍼もしくは灸頭鍼法を行うこともある。

 同時に、膝蓋骨上際の穴位(角上)に置鍼する。又、臀部の会陽穴と太陽足底点(小指基節足底中央横紋部)、もしくは殷門と女膝穴を重用する。これに加え腰部や臀部の処置を忘れず行わなければならない。患側腰臀部はやや持ち上がっており、腰椎直側の硬結と仙腸関節の反応所見を必ず処置する必要がある。

 仙骨部の刺法は、浅刺を丹念に行わなければならない。

 灸法で特に、炎症性の膝関節症には、腫張周囲に知熱灸を三壮程度囲むように、数点を取り、行うと良い。

 ③ 関節疾患の基本処法

 運動器疾患の内、関節疾患は、病因を把握し証を的確に定め、鍼灸処置法を行うことによって、急性の症例については、概ね著効を現すことは周知の通りである。膝関節炎を含め、打撲捻挫については、共通して患側は軽い刺法に留め、健側同部位に瀉的に刺鍼することを原則とする。

 灸法を行う際には、患側に一壮とし、健側に五壮から十壮施している。これによって炎症は一定期間を経て治まり治癒に移行する。

 膝の変形がひどく、O脚やX脚で可動制限のあるものや、これに加え大腿四頭筋の萎縮がある症例では、難治の症例も多く、長期間の治療を必要とするので注意を要する。又内外側半月板損傷や靭帯損傷を想定しての諸テスト(イートンテスト・マックマレーテスト等)も診断の際、活用することが大切である。

 

Ⅴ 治験例 … 膝内側の自発痛及び初発時著明動作痛

 患 者 … 58才  女性  職業 … 食品販売パートタイマー

 初診日 … 平成10年6月15日 (治療回数、5回)

 現病歴 … 肥満症(152cm・65kg)  2カ月前から、膝の内側に初動動作時に痛み有り。閉経後に肥り始めた。冷え症が有り。

 既往症 … 二児出産時、軽い妊娠中毒症有り。その他は特になし。

 脈状診 … 沈にしてやや実・緊脈あり。

 腹 診 … 皮膚は滑らかで肌黄色、肌肉は弾力あり。声は甲高い。上実下虚小腹膨隆し、左股関節気街部に緊張有り。左肓兪に硬結あり、臍中に動悸。

 負荷法による証決定 … 左肓兪に示指で負荷圧をかけ、右太谿(兪土原)穴と復溜(経金)穴に銀鍼をあて、太谿で肓兪の硬結が緩む。次に、右太淵(兪土原)穴と列缺(絡)穴及び尺沢(合水)を同様に負荷し太淵穴で肓兪の反応が軽減した。左側は、同様の方法で内関(絡)と公孫(絡)で中の反応と、肓兪どちらも、硬結反応が軽減したので、右腎虚・左脾虚の重要証と決定。

 陽経取穴 … 左三里と支正  右束骨と二間。 右外関と左臨泣。

 腹部処置 … 中に軽い切皮鍼後、関元を補鍼。左気街部の反応を接触鍼で取る。

 標治的処置法 … 右陰陵泉及び膝関穴を補鍼後、左患部を接触鍼程度で瀉的散鍼を行った。

 重用穴の運用 … 内膝眼に寸3・2番鍼を置鍼したまま、髀関と犢鼻・居と中封を合わせる。

 腹臥位の処置 … 身柱と命門。左仙骨部に硬結有り、これを細鍼で取り会陽と少陰足底点(足第一指内足基節横紋部) 大杼・右肺兪・左脾兪・腎兪・胞肓右委中から左委中へ、左飛陽。殷門と崑崙を最後に合わせワザ。

 背・腰・左右の膀胱経・胆経と足陰経に軽い散鍼を行い治療を終わる。

 治療後の脈状と腹証所見 … 脈状では、細い緊張した脈がとれ、微沈脈で弾力有り。腹全体に上下差が無くなり、臍中の動悸が軽く当たるようになり、肓兪と中の実がとれて小腹が温まっている。5回目の治療後には、屈伸動作においても疼痛は発現しなかった。

 評 価 … 本症例は、疼痛を発して二カ月であり、全五回の治療で治癒した。病因としては冷房の効いた、食料品のスーパーで立ちっぱなしで作業、寒湿の邪が入ったことが直接の原因と思われる。更に、55才で閉経後急速に体重が増加した上、又2児を出産時、軽い妊娠中毒症を発していたこと等から、血による左気街部の反応もあり、膝の痛みを発症したものであると推察できる。

 このような症例の場合、腹診と合わせワザによる処置法が効を奏し、比較的早期に治癒したものである。この処法を基本に、追試をしてもらいたい。

 

  おわりに

 膝に関わる諸症は冒頭にも述べたが、変形による痛みが多く、股・足関節全体を視野にいれ処置しなければならない。疼痛の原因の一つは湿気と冷えである。証は骨節を主る腎が基本となり、脾が絡む。また肝と肺・脾の証も多い。一方女性で、血症による膝関節症については、左側に多く発症することが知られており、この場合には中封穴と健側の太淵の補法が奏効する。更に重ねて言うが、内側の痛みには内関と公孫、外側の痛みには外関・臨泣を鍼と鍼を合せると良い。尚、リュウマチ様関節炎については別項で触れることにしよう。

                          文責 - 松本俊吾

 

 

 

 

 

 


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