鍼灸経絡研究紘鍼会
「腹診のすすめ」

.1 はじめに
 東洋医学に於ける鍼灸治療の主目的は、健康で天寿をまっとうさせることにあります。本会は、鍼灸臨床実践者に、東洋医学の基本である陰陽論・五行論や、経絡経穴現象等を基として、養生術・治療技術を解り易く、手より手に伝え、鍼灸治療の真髄を体得する事を目的に活動している会であります。特に初心者には、明日から即、治療実践出来る様に指導しております。
 本会は、綱領として、至誠・共和・努力の三つを掲げ、和やかに会を運営しております。


.2 本会の特徴
 会の特徴は、微鍼で気をして血を動かす手法を駆使し、四診法(望・聞・問・切)の内、切診の中に更に脉診・腹診(背候診を含む)を加え、六診とし、特に脉状診と腹診に重きをおき、なかでも腹診に於ける負荷法に特徴を有しております。
 身体は、自然界と言う大宇宙に対し小宇宙と言われております。自然界の動きは身体表面に経絡・経穴現象として顕現し、その変化は私たちの五感を通して診ることができます。
 その現象に対し、手足の要穴、即ち五行穴、原穴・げき穴・絡穴、と腹形や診断点(特定穴と募、兪穴)との相関を負荷法により求め、全身のアンバランスを調整し、快適、壮快感を感じていただける治療術です。


.3 本会の指導方針
 学術の指導は、日本で培われてきた伝統的鍼灸基礎理論の講義、マンツーマンによる技術指導、会員による治験発表等を行い、月例会を第2日曜日に催しております。
 この他、第4日曜日に、腹診を主に、高度な理論・技術修得を目的とした研究会を開催しています。
 また、日本伝統鍼灸学会及び古典鍼灸推進会に団体加入し、研究発表等活動も盛んです。


.4 紘鍼会に於ける診断と治療
 古典に「上下は水火なり。左右は陰陽なり」とある。
重要証
 身体に違和が生じて経絡経穴に反応が現われる場合、身体の上下左右に差を認める事が多い。そのうち左右差を証として決定するのに腹診法を用いる。
 腹診法は、腹形と診断点から成り、腹形は、蔵象の一つとして、臓腑、経絡の変動により、現病証と素因証が重なって現われている。診断点は、胸腹部所定の経穴に顕現する主に実証所見と、手足の要穴に現われた硬結、圧痛、緊張、冷温、違和感等を自覚的、他覚的に虚実として捕える。
 証の決定は、陰陽五行論を基として、外象と内象の虚実を踏まえ、腹形と診断点と、手足の要穴に上下、左右、筋交い、等の相関を負荷法によって求め、最有効刺鍼点を決める、これと同時に証を決定する。
 重要証は、診断に於いては、肝肺(右肝虚証、左肺虚証)、肝脾(右肝虚証・左脾虚証)、脾腎(左脾虚証・右腎虚証)、腎脾、脾肺等相克相生関係があり、治療に於いては、経絡の主と従の関係を重んじ、診断と治療を一体化している。

参考
重要:最も大切な事、大事な事、証として要となる事。
負荷法:左右所定の穴の反応を比較し、硬結、圧痛、等強い側を実、弱い側を虚と定める。この時手足の要穴の一つに、てい鍼、或いは指腹端で、実側穴を同時に適度の負荷を加えて腹部の反応が緩解、もしくは、消去する事を確認する。


.腹形と診断点
A.腹形……臓腑の病により現われるもの。
B.診断点…硬結、圧痛、緊張感、陥下、冷温等により病証診断するところ。

 (1)肝
肝の臓(木)の変動により来るものは肌の色(青黒、青白)等を表し季肋及び側腹部の状態を見る。
診断点
肝…期門、天枢、肓兪、居りょう
 
 (2)心
心の臓(火)の変動により来るものは肌の色赤色、腹全体が張り満ち動悸あり。
診断点
心…鳩尾、巨闕、神闕、虚里の動、だん中、天突
 
 (3)脾
脾の臓(土)の変動により来るものは肌の色(黄、肌色)等を呈し、上虚下実特に股関節に寄った部が膨隆する。その他臍を中心に椀を伏せたように膨隆し臍中に動悸あり。肌肉力なく自覚的他覚的にも痛みの反応なし。
診断点
脾…大横、章門、左右の章門を結ぶ線上、中かん

 (4)肺
肺の臓(金)の変動により来るものは肌の色白くざらつき上虚下実、特に臍を中心に馬蹄形に膨隆し上部に口を開く。中府の部が陥下する。
診断点
肺…中府、期門、右天枢、中かん

 (5)腎
腎の臓(水)の変動により来るものは肌の色黒くなめらか、上実下虚、特に臍下任脉上左右胃経間の陥下又は腹全体が舟底形。
診断点
腎…肓兪、京門、小腹任脉上の反応点

○その他肺又は脾の腹形に右側の天枢から右側の梁門章門にかけて膨隆するものあり。判定は病証及び診断点でみる。


.標本取穴表
(『霊枢』・衛気編-五十二)

経絡     本穴     標穴
膀胱経    ふ陽     晴明(命門)
胆経     竅陰     聴宮
胃経     れい兌    人迎
腎経     復溜     腎兪と廉泉
肝経     中封     肝兪
脾経     三陰交    脾兪と舌根部
心経     神門     心兪
心包経    内関     天池
小腸経    養老     攅竹
三焦経    中渚     糸竹空
肺経     太淵     天府と肺兪
大腸経    曲池と臂臑  頭維


.子午の陰陽

   (陰経)    対側指示経    (陽経)
    肝経  ──────────  小腸経
    心経  ──────────  胆経
    心包経 ──────────  胃経
    脾経  ──────────  三焦経
    肺経  ──────────  膀胱経
    腎経  ──────────  大腸経

経    旺気時         十二支  気血
肺経    3時 ──── 5時  寅    多気少血
大腸経   5時 ──── 7時  卯    多血多気
胃経    7時 ──── 9時  辰    多血多気
脾経    9時 ──── 11時  己    多気少血
心経    11時 ──── 13時  午    多気少血
小腸経   13時 ──── 15時  末    多血少気
膀胱経   15時 ──── 17時  申    多血少気
腎経    17時 ──── 19時  酉    多気少血
心包経   19時 ──── 21時  戌    多血少気
三焦経   21時 ──── 23時  亥    多気少血
胆経    23時 ──── 1時  子    多気少血
肝経    1時 ──── 3時  丑    多血少気




.間中先生子午説の表
(略)


.十二経補瀉取穴表
    原則として補穴には母穴、自穴を用いる
    瀉穴には子穴、自穴、剋穴、畏穴を用いる
    但し原穴、げき穴、絡穴は補瀉共に用いる

陰経
 手
  経(太陰 肺経)  補穴(太渕 兪土原 母) 瀉穴(尺澤 合水  子)
  経(少陰 心経)  補穴(少衝 井木  母) 瀉穴(神門 兪土原 子)
  経(厥陰 心包経) 補穴(中衝 井木  母) 瀉穴(太陵 兪土原 子)
 足


  経(太陰 脾経)  補穴(太白 兪土原 自) 瀉穴(商丘 経金  子)
  経(少陰 腎経)  補穴(復溜 経金  母) 瀉穴(湧泉 井木  子)
  経(厥陰 肝経)  補穴(曲泉 合水  母) 瀉穴(行間 栄火  子)

陽経
 手
  経(陽明 大腸経) 補穴(曲池 合土  母) 瀉穴(二間 栄水  子)
  経(太陽 小腸経) 補穴(後谿 兪木  母) 瀉穴(小海 合土  子)
  経(少陽 三焦経) 補穴(陽池 原穴)    瀉穴(天井 合土  子)
 足
  経(陽明 胃経)  補穴(足三里 合土 自) 瀉穴(れい兌 井金  子)
  経(太陽 膀胱経) 補穴(至陰 井金  母) 瀉穴(束骨 兪木  子)
  経(少陽 胆経)  補穴(臨泣 兪木  自) 瀉穴(陽輔 経火  子)


.重用穴
 生体は、病的変化を起した時、体内に電荷の偏在を生ずる。この電荷の偏在を平均化し、調整する事により、自然治癒力を増進させる事が出来る。
 重用穴は、奇経の総穴の考え方と故間中喜雄博士が提唱した二種金属接触理論とイオンパンピング療法を導入して、一経上の二穴ないし、三穴以上の穴を同時に刺鍼し、外部から術者の生体電位を循環させ、又病証、或いは症候により、他経と結合をはかり広範囲に選穴して臨床に応用する。


.重用穴一覧表
次に掲げる穴の組合せは異種金属を用い同時に使用することによって治療するものである。

1  内関      足三里
2  合谷      曲池
3  殷門      崑崙
4  後谿      風池
5  環跳      陽陵泉
6  陽白      陽陵泉又は光明
7  築賓      天突又は廉泉
8  手三里外    大杼又は秉風
9  外関      肩井
10  正営又は承霊  肩井
11  腰眼      崑崙又は女膝
12  脾関      中府
13  膈兪      膈井(膈兪経)
14  督兪      督井(督兪経)
15  脾関      犢鼻
16  足底点     背部兪穴
17  公孫      日月─肩井
18  公孫      日月─欠盆


.奇経八總穴
1  内関(陰維脉)   公孫(衝脉)
2  外関(陽維脉)   臨泣(帯脉)
3  申脉(陽きょう脉) 後谿(督脉)
4  照海(陰きょう脉) 列欠(任脉)

注 膈井…中指尺側爪甲根角 ●督井…藥指橈側爪甲根角
(膈兪)第7胸椎棘突起下外方1寸5分
(督兪)第6胸椎棘突起下外方1寸5分



●トップページ  ●ご挨拶   ●30年の歩み  ●リンク
●活動内容   ●トピックス  ●入会案内